★独りぼっち
〜第4章〜
浩の一人暮らしが始まって数ヶ月。その間、季節は移ろい、咲く花々は彩りを
変えて、浩の心を和ませた。
会社では、浩は妻の死から立ち直った素振りを見せているが、家に帰ると、
誰もいない事に常に溜息をつく日々を送っていた。
恭子が生きていた時は、恭子が買い物に出掛けている時に帰宅しても、
必ず帰ってくるという安心感が心の中にあった。しかし、今はいつまで経っても、
恭子は帰ってこない。
炊事に洗濯、出勤の管理から町内会の事まで、今まで恭子がしてきた事を
一人でこなさければならない。一人になることで、妻のいることのありがたさ、
そして感謝の気持ちを抱いた。
しかし、恭子に感謝の気持ちを持ったところで、恭子が生きて戻ってくる事はない。
そう思うと、浩は孤独感に襲われた。その孤独感からどう逃れようか考えているうちに、
夜が明けて、また勤務になる……の繰り返しだった。
美鈴は生活のためアルバイトを続ける一方、来る日も来る日もリクルートスーツに
身を固め、企業周りを続けていた。面接まで辿り着くこともあるが、面接で
露骨に両親の死の事を言われる事も多く、結果には結びつかなかった。それでも、
美鈴はめげる事なく、日中は企業を周り、夜は履歴書などを書く日々を送っていた。
浩とは、就職活動の最中に、乗務中に会う事が多く、簡単ながら近況を報告していた。
その度に、結果が出せない自分を心の中で責めていた。それでも、浩の前では
決して涙をみせまいと誓い、あっけらかんとした表情で、浩に状況報告をしていた。
冬が去り、桜のつぼみが春の息吹を伝える頃、恭子と陽子の一周忌が相次いで
執り行われた。二人とも、ごく身内だけで行ったが、今度は浩も美鈴も、お互いの
一周忌に出席して、一年間の報告をした。
陽子の一周忌が終わった後、浩は美鈴に勧められるままに、美鈴の自宅を訪れた。
美鈴としては、本当はもっと早く招きたかった感じだが、美鈴の心の中に、
一周忌までというけじめを持っているようだった。
陽子がいなくなった美鈴の自宅は、整理されて、こぢんまりとしていた。浩は
勤務に追われて雑多になりつつある自分の部屋と比べて溜息をついた。
勧められるままにこたつに座った浩に、美鈴はコーヒーを入れて、浩に向かい合う
ように座った。恭子と一緒に遊びに行った時は、いつも美鈴は隣に座っていたが、
向かい合って座ることで、美鈴の事を改めて意識させられた。
「小父さん、一人暮らし慣れた?」
コーヒーを渡しながら、美鈴が尋ねてきた。
「やっと慣れて来たところかな。恭子がいなくなるだけで、こんなに苦労するとは
思わなかったな」
浩はコーヒーを受け取りながら応えた。
「美鈴ちゃんも、もうじき卒業かぁ」
部屋に飾ってあるカレンダーの丸印を見た浩は、ぽつりと呟いた。そして、
一時は躊躇しながらも、
「就職先、決まった?」
恐る恐る尋ねた。
美鈴は、一度は俯いたが、
「結局、今日まで決まらなかった」
悔しさ一つ見せずに応えた。
「そっかぁ」
両親の死という壁に立ちはだかれても、めげずにアタックを続けてきた美鈴の
事が不憫に感じた。
「それで、この先どうするの?」
お節介だと思いながらも、浩は聞いてみた。
「今のバイト先に残れるから、バイトしながら、就職活動続ける。留年したほうが
有利だけど、母との約束で、四年だけって決めているから」
心なしか、美鈴の表情に悔しさがにじんでいた。浩は、これ以上、美鈴に孤独に
よる辛さを味あわせたくない、という気持ちに駆られた。同時に、浩の一人暮らし
による孤独さも、限界に達していた。
「美鈴ちゃん」
浩は意を決して、かしこまって座り直した。
「唐突で何だけど、私と結婚して下さいませんか」
それまで、結婚のけの字も言わなかった浩の口から、結婚という言葉が出た事に、
美鈴は戸惑いの表情を見せた。
だが、その戸惑いの表情はすぐに喜びの表情に変わった。
「今まで、小父さんには大変お世話になりました。今度は、私が小父さんのお世話しますよ」
美鈴はそう答えると、にっこり微笑んだ。
浩は、美鈴がプロポーズを受けてくれた事に、瞳に涙を潤ませながら立ち上がって、
美鈴のところに行くと、
「ありがとう」
感謝の気持ちで、美鈴を優しく抱きしめた。
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