★線路よ輝け、未来へ
エピローグ
永田と植村は、教わったバス乗り場に向かって歩き出した。
雨はまだ上がらず、空を仰いだ永田は、震災で亡くなった人たちの鎮魂を祈った。
待つことなく、HAT神戸直行バスが到着し、何名かの乗客の後に
続いてバスに乗り込んだ。
10分程で「人と防災未来センター」に到着し、建物の大きさに驚きながら、
サインに従って防災未来館に入場した。1月17日は入場無料という事もあって、
一階のロビーには多くのギャラリーがおり、生徒の姿も見えた。
「まずは、個人でお見えになられた方から、ご案内します」
1.17シアターの上演時刻が近付いたのか、係員が案内し、永田たちは一番に
1.17シアターに案内された。エレベーターで4階まで上がり、
扉が開き通された先は、薄暗い照明の中に、前面一杯に広がるスクリーンが
浮き上がるホール。その僅かな照明が、これから映し出されるものに対する不安を掻き立てる。
ギャラリー全員が揃い、係員の説明の後、シアターの照明が落ち、
真っ暗になる。平穏な映像が映し出された直後、轟音が鳴り、足下が揺れた。
(何?)
永田が思う間もつかせず、前面のスクリーンに映し出されたものは、
大きな音を立てて崩れ落ちた。家屋、ビル、鉄道、高速道路、港……。
全ては実際に起きた事の再現映像。そうは分かっていても、その生々しい映像に、
永田も植村も衝撃の色を隠さず、ただ息を飲み込むだけだった。
上映が終わっても、二人の顔から衝撃の色は消えなかった。震災発生直後の
再現ジオラマの中を歩き、明石や藤田、そして立花がこの状況下にいた事を思うと、
恐怖さえ覚えた。
大震災ホールでは、震災発生から復興までのVTRを見たが、先の衝撃で見た内容が霞んだ。
一時的な疑似体験をしただけで、何もする事が出来ない事に、永田は、
自然の持つ猛威に人間がいかに弱い物かを感じた。それでも生き抜いた明石や藤田が、
人間として大きな存在に思えた。
VTRの上映が終わると、3階に移動し、展示物を一つ一つ見て回った。
地震の凄まじさを、言葉無しに伝える展示物に、時には目が潤む。
曲がりくねった線路に辛うじて停まっている電車の巨大パネルに、
二人はただ呆然と見つめるしか出来なかった。
2階の展示物も見て、カフェで昼食を取る時も、まだ衝撃から立ち直れず、
言葉数は少なかった。
「明石さんたち、あの惨劇とも言える中を生きてきたんですね」
植村がぽつりとこぼす様に、永田に話し掛けてきた。
「『おほなゐ』をやって、明石さんたちの体験を聞いて、地震の凄まじさを
知ったつもりでも、あの映像には衝撃を受けましたね」
永田も、ぽつりと応えた。
「今日、ここに来て、被災した人たちが今も心の傷を負って生きているのが、
分かった様な気がします」
「そうですね。私たちはあくまでも疑似体験でしか出来ないですけど、
被災された人たちは、実際恐怖と死との背中合わせでしたからね」
永田はそう応えると、コーヒーを口に含ませた。
「もっと早く、ここに来ていれば、また違った『おほなゐ』が出来たと思いますね」
「私も、違う視点で『おほなゐ』を聴くと思いますね」
「自然の威力には、私たち人間は太刀打ち出来ない事を、改めて感じました。
そして、1995.1.17 5:46を決して忘れてはならない事も、強く感じました。
来て良かったと思いますよ」
「そうですね。私もそう思います」
永田と植村はしみじみ語りながら、食後のコーヒーを味わった。
食事を終えた二人は、再びバスに揺られて、三ノ宮に戻った。
「植村さん。今日はいつ頃まで大丈夫ですか?」
「私ですか? 明日準夜勤なので、遅くても大丈夫ですよ」
植村は、永田が意図するものが掴めず、不思議そうな表情を見せた。
「もし、よろしければ、六甲道駅に寄ってから東京に戻りませんか?」
「六甲道駅ですか?」
「ええ。JR線で最後まで復旧作業が行われた、フェニックスの様な姿を、
一度見ておきたいんです」
「いいですよ。私も六甲道でボランティアをしていましたから」
永田の提案に、植村は微笑んだ。
「東京までのきっぷは六甲道で買いましょう。六甲道まではsuicaで」
「さすが、永田さん。鉄道ファンですね」
永田と植村は顔を見合わせると、満面の笑みを見せた。
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