文芸処・椋岡屋

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図書室

掲載日:2013年05月24日

★蒼色の笛

10年間を振り返って

 創作文芸個人サークル「文芸処・椋岡屋」を立ち上げたのが2003年5月24日でして、2013年に10周年を迎えることとなりました。もっとも、 途中に横浜から京都を経て東京へ、と転居が続き、境遇も考えも変わった上に、劇作家を目指してそちらの方に掛かり切りになってしまい、 2009年に入ってから2012年11月頃まで、小説の方はお休みしておりましたが(苦笑)。


 当サークルを立ち上げた経緯ですが、今は無き鉄道同人誌「花咲く鉄路」(略して「花鉄」)に参加したのが原点です。この同人誌の執筆陣は、 当時は数少なかった女性鉄道ファンでして、各執筆者の持ち味で「鉄道」を漫画なり、文章なりで表現して発表しており、椋岡も当初は電車キャラでギャグ漫画を描いていました。 そのうちに、小説で何かを書きたい、という気持ちが出て来まして、少しずつ、小説の方へシフトしていきました。ただ、本当の意味での同人誌のため、 一人当たりに割り当てられる頁数に限りがあり、その分、書ける文量も限られてきます。そのため、「掌編というのには長いけど、短編というのには短い」 作品を書いていたのですが、書き始めた「シリウスの涙」が結構な長さになったこともあり、花鉄を卒業し、創作文芸サークル「文芸処・椋岡屋」を立ち上げた次第です。

 サークル立ち上げ時は、鉄道ジャンルの読者さんが殆どで、しばらくは鉄道ジャンルで活動し、鉄道ギャグ漫画も描いておりましたが、小説に専念すべく、 2006年5月をもって、鉄道ジャンルから創作文芸ジャンルに完全移行をしています。

 また、ペンネームも、当初は「椋岡鳴海」でしたが、商業誌への投稿も視野に入れて、2005年1月1日付で「椋岡成美」に変更しました。余談ながら、 名字にあたる「椋岡」ですが、名鉄河和線「椋岡駅」から拝借しました。日中は普通列車でも通過する駅で、隣の阿久比駅から見える距離に位置していることもあり、 2006年12月15日をもって廃止となりました。廃止になる前に印刷所への入稿と併せて訪れましたが、寂しい限りです。


 さて、「椋岡が小説を書こうと思ったきっかけ」なのですが、感熱紙での印刷が前提のワープロが主流だった頃には既に、 鉄道員の「品川希望のぞみ」……ここでも愛情を込めて希望ちゃん……を主人公にした作品を書きたい、 と思っていました。内容からして漫画の方がドラマチックなのですが、画才のない椋岡にシリアス漫画は描けない、ということで、 小説もどきにもならないモノを密かに書いていました。しかし、当時は小説の書き方が分からず、花鉄時代に書いた作品も、小説未満。

 その一方で、クリスチャン作家の三浦綾子さんの影響を受けまして、三浦綾子さんのようにキリスト教の愛を伝えて行きたい、という考えもありました。 こちらに関しては、小説の方が伝えやすいので、両方の思惑が合わさった結果が、「小説」という形となりました。

 ただ、小説の書き方が分かってから書いた作品が、希望ちゃんが主人公でもなく、キリスト教の教義もない、「シリウスの涙」というのが、当の本人からして不思議なのですが。


 小説を書く経緯からしてお分かり頂けると思いますが、椋岡の書く作品の傾向も、非常にクセの強いものとなりました。まぁ、作品の舞台が鉄道会社、 という時点で普通ではないのですけどね。花鉄時代も含めて、初期の作品はライトのものが多く、人間ドラマを含めたとしても、どこかしらほのぼのとした作品が続きました。 人の持つ内面を主体にし始めたのが作品集「異境の鐘~はるか、大地へ」でしょうか。そして、キリスト教の教義を書くようになったのが「雪の天使」。 さすがに、社会情勢を踏まえた作品や娯楽ネタ作品には、キリスト教の教義は出て来ませんが、散々っぱら、希望ちゃんはクリスチャン、と書いてきたので、 とある同人関係者から「作品中にキリスト教の教義が出てくるのは、椋岡さんのもう一つのスタンス」と言われたことがあります。

 古くからの読者さんはご存じだと思いますが、椋岡は長年うつ病を患っておりまして、病名は変わりましたが、今現在も通院加療が続いております。 近年は社会的に認識が広まり、理解する人々が増えましたが、それでも尚、偏見の眼差しがあると思います。作品を通して「うつ病」を取り上げて来たのも、 一人でも多くの人に「心の病」のことを知って頂きたい、という思いがあります。

 椋岡の作品に大きく影響を与えたと言えば、中島みゆきさんも挙げられます。シンガーソングライターとして綴った言の葉はもちろん、劇作家として紡いだ言の葉も、 椋岡の心に深く染み入り、自然と作品に滲み出るようになりました。あまり色濃く出すのではありませんが、希望ちゃんが中島みゆきさんのファンになった経緯、 というのを説明をする必要もありますので、その辺りは「聴け、蒼天の詩を」全面改訂版で書くつもりです。

 作品の傾向が「鉄道を舞台にした作品」から、「鉄道員を通して、人としての在り方を問う作品」に変わったのが、作品集「そのとき」。 この作品集を発表したのは2006年8月ですが、この頃には、「聴け、蒼天の詩を」旧作のベースが出来上がっていたので、それを踏まえての路線変更になりました。 また、福知山線脱線事故を受けて、鉄道員が「お客さまの安全を守る」職務であるが故に、憧れだけではなれない職務、ということも書くようになりました。


 しかし、今の椋岡には、宗教色が出る作品は書けません。というのも、2012年夏の入院を機に、人生観が180度変わりまして、宗教的な考えを受け入れることが出来なくなりました。 また、作品中における登場人物の「死」も書きたくない、という気持ちも強くなりました。それでも書かないとならない作品もありますが、作品に作者の人生観が滲み出るのは、 当の本人が良く分かっていますので、今まで書いてきた作品との線引きをして、「聴け、蒼天の詩を」の全面改訂を決断した次第です。

 その「聴け、蒼天の詩を」の全面改訂ですが、旧作で発表しているのが、希望ちゃんが小牧隆之くんと結婚したところまでで、その後に、 「小杉希望」に至るまでのことを書く予定でした。ただ、それがキリスト教の教義でもっての経緯でして。今までの人生観で書いた作品の続きを、新しい人生観で書いても、 どこかで歪みが出てくるのが目に見えるので、いっそうのこと、宗教描写に頼らずに書くことにしました。もっとも、致命的なミスを発見してしまい、どのみち、 全面改訂は免れませんでしたが。

 それに付随してですが、「希望ちゃんはクリスチャン」という設定も変わります。キリスト教主義の私立校出身、という部分は変更ないですし、 中学生になるまでは教会学校に通っていた、という設定で進めるので、キリスト教のことは知識で知っている、という形になります。


 閑話休題。椋岡が書く作品の多くは、「多摩川高速鉄道」という架空の私鉄が舞台になっております。詳しいことはここでは割愛しますが、 大森中央駅から八王子方面を結ぶ多摩川本線、三田から大森中央駅を経て横浜の本牧方面を結ぶ海岸線、そして、国鉄時代に鶴見線と南武支線を買収した臨海線と浜川崎支線、 という設定をしています。

 今でこそ、椋岡の書く作品の主要人物は、その多摩川高速鉄道海岸線の運転士である「小杉希望」ですが、しばらくは彼女の出番がないこともあり、舞台の方も、色々と変わっておりまして、 初期は枚方俊之くんが主人公となった臨海線&浜川崎支線の他に、多摩川本線の作品、海岸線と相互直通運転をしているメトロ東京(これも架空)の作品が続き、 その狭間に海岸線、と言った感じでした。海岸線が主体になったのは2004年12月に発表した「雪の天使」以降の作品です。もっとも、海岸線主体と言っても、 多摩高本牧駅、というよりは内海政樹くんが登場する作品が多いので、路線としての海岸線の作品は思った程ないです。その海岸線も本牧方面が多く、三田方面の作品は、 多分「一輪の花」だけだったと思います。いや、南大井駅関係はあるのですが、大森中央駅の隣なので(苦笑)。


 登場人物の変化となりますと、サークル立ち上げ後の作品では、「シリウスの涙」の主人公である枚方くんが中心の作品が続き、合間に根津友昭くん、 メトロ東京シリーズの登場人物。2004年5月に発表した「恋文」で、やっと希望ちゃん、そして宮浦誠くんが登場。以後、どこかしら、「小杉希望」もしくは「小杉」が出て来ます。 椋岡の作品に登場する「小杉」は、「恋の遺失物預かり所」と「聴け、蒼天の詩を」以外は、希望ちゃんだと思っても差し支えございません。それでいて、 希望ちゃんが主人公の作品は「ほんとうのきもち」「聴け、蒼天の詩を」「白の花束」、一人称の掌編作品が2作品ぐらいなんですよね。もっとも、 プロフィール作品の「聴け、蒼天の詩を」がえらく長いので、他に書きようがない、というのが実情ですが。ちなみに、 希望ちゃんが「品川希望」から「小杉希望」に至るまでに深く関与する、奥沢隼人くんと小牧隆之くんは、 「聴け、蒼天の詩を」での話ですが、ご主人となる小杉利緖としおさんは先に、 「海の歌」(後に「恋の遺失物預かり所」に改訂・改題)で、内海くんと共に登場しております。


 今後書く予定の作品ですが、ともかく「聴け、蒼天の詩を」の全面改訂が終わらないことには、他の作品は資料収集が限度です。全面改訂を決めてから、 不幸にも情報が集まりすぎて、「ここまで変わるのならタイトルを変えろ」と言われそうなぐらい、内容が変わりますので。ちなみに、これを書いている現在でも、 まだ「具体的な流れ」が固まっておりません。流れがほぼ確定してから、もう少し細かい部分を詰めて、それからプロットなので……なんか、2014年内に草稿に入れるのか、 不安になってきました。

 その一方で、2013年5月の時点では、福知山線脱線事故を始めとする鉄道事故を背景にした作品を書く予定を立てておりましたが、 「聴け、蒼天の詩を」全面改訂で多摩川高速鉄道の内部事情を書くに当たり、その内部事情にプラス、JR北海道の一連の事案を含めた社会派作品に変更することを、 2014年1月現在考えております。

 他には、今回の10周年記念作品で伏線を出している人身事故関係と、内海くんのプロフィール作品の再編を考えています。人身事故関係は、希望ちゃんの実父、 品川道生さんが大森電車区区長でないと成り立たない話であるのですが、内海くん関係は、「聴け、蒼天の詩を」全面改訂で変更が生じる部分が結構あり、 書き直して統一性を持たせたい、という意味での再編に変更です。

 あとがきにも書きましたが、社会情勢に合わせた作品を書こうとすると、登場人物もそれなりに歳を重ねることになるので、そろそろ、希望ちゃんの後任を考えないといけない、 とも言えまして。椋岡の書く「鉄道小説」は、現代小説と言うよりも、社会派の色が濃くなってきたこともあり、いつまでも希望ちゃんが現役運転士、 というのにも限度があります。10周年記念作品で伏線を出したのもこのためです。実のところを申しますと、2014年1月の時点で、希望ちゃんの進退を決めました。 とは言っても、まだまだ現場機関にいますので、今後も海岸線が舞台の作品でしっかりと登場します。 何分、一番に愛しているキャラなので、ギリギリまで希望ちゃんに頑張ってもらおうと考えております。


 「文芸処・椋岡屋」の活動としては、今のところ、同人誌即売会などのイベント参加は白紙状態ですが、「聴け、蒼天の詩を」全面改訂版の発表もありますので、 完成した時に、イベント参加を含めた発表手段をどうするかを考えようと思っております。発表出来る頃には、椋岡を取り巻く環境も変わっているかも知れませんし、 何より、小説は紙媒体で読んで頂きたいですから。


 小説執筆の空白期間が4年程ありましたが、その間は戯曲を書いていましたので、10年もの間、常に文章を綴ってきたことになります。それに自惚れることなく、 これから先も感性を研ぎ澄ませて、鉄道員、とりわけ「運転士の小杉希望」を通して、「人としての在り方」を問う作品を書いていきたいと思います。

 最後になりましたが、読者の皆様、作品執筆にあたりご協力頂きました皆様に、厚く御礼を申し上げます。今後とも、「文芸処・椋岡屋」をご愛顧頂ければと存じます。


2013年5月24日(2014年5月22日加筆修正)

椋岡成美